アジア文庫のレジ裏から

『越後のBaちゃんベトナムへ行く』
2007年10月9日

 『越後のBaちゃんベトナムへ行く』が好評です。80歳を越えた認知症の母親をベトナムに連れて行って一緒に暮らす女性の体験記です。著者は日本人教師としてハノイで働く小松みゆきさん。「Baちゃん」は新潟県の豪雪地帯に生まれ、同じ村に嫁ぎ、連れ合いが亡くなるまでのほとんどを当地で過ごした。介護施設が見つからず、やむなく、自らの住むベトナム・ハノイに伴い、共に暮らすことにしたものの、不安を抱えながらのベトナムでの暮らしだった。
 ところが、徘徊や、入院など多くの困難もあったが、
「Baちゃん」はベトナムでの暮らしになじみ、周囲のベトナム人の支えもあって、新潟で暮らしていた頃よりも表情が活き活きしてくる。
 アジアの滞在記は数多く出版されていますが、いずれも働き盛りの若い人の視点で書かれた体験談で、高齢者を題材にした本は皆無です。高齢者が現地にどう溶け込み、どのように受け入れられるのかといった視点からも大変貴重な体験記です。ベトナムに限らず、多くのアジアの国々では高齢者には優しいという話しはよく聞きます。
 以前、前川健一さんがお母さんをタイに連れて行ったときのことを、本だったか、雑誌だったのか記憶が曖昧なのですが、書かれていたのを思い出した。お母さんを連れて、バンコクの大通りを横断しようとして車の流れを確認している時に、振り返ったら、見知らぬタイ人が、お母さんの手を引いて渡らせてあげようとしていた。お母さんを連れていると、それまで一人の時には見えなかったタイが現れてきた、といった一文がありました。小松さんも同じようなことを書かれている。
 小松さんの体験は、マスメディアでも話題として取り上げられています。今年の6月19日と20日、2回にわたって朝日新聞の家庭欄に、取材記事が大きく掲載されました。
 また、NHK教育テレビの「福祉ネットワーク」で、10月10日(午後8時〜)に「ヒロさんと認知症とベトナムの空」が放送される予定です(再放送:10月17日、午後1時20分〜)。興味のある方はご覧下さい。

『人間の大地』四部作完結
2007年8月
25日

 プラムディヤ・アナンタ・トゥールの長編歴史小説・四部作(押川典昭訳)の日本語訳がようやく完結しました。初巻の『人間の大地』が1986年刊、以降、『すべての民族の子』(1988年)、『足跡』(1998年)と続いて、最終巻の『ガラスの家』がついに今月刊行され、四作が揃いました。なんと、なんと翻訳完結までに21年かかったことになります。発行元・めこんの桑原さん言うところの「超完璧主義者の押川さん」にとっても労作でしょう。その執念もついに実りました。
 アジア文庫でも、この作品ほど刊行を待つ読者の声が寄せられた本はなかった。『人間の大地』刊行以後、「次はまだ出ませんか?」という問い合わせを何度受けたことでしょう。『人間の大地』から二作目の『すべての民族の子』までは2年間しかなかったからまだよかった。二作目から三作目、『足跡』までが長かった…10年です。さすがに、5年も経つと、問い合わせはグッと減ってくる。そろそろ読者も諦め、あるいは忘れかけていた88年に、『足跡』が刊行された。そして、これからがまた長かった。さらに、「次はまだ出ませんか?」コールを浴び続けて、苦節10年。…とにかくホッとしました。
 『ガラスの家』を手にして、「前作までの内容、もう忘れてしまいましたよ」と言いながら、笑顔で買っていかれるお客さんが印象的でした。
 この間、2000年には、プラムディヤは「福岡アジア文化賞」で大賞を受賞、その受賞式に来日し、各地で記念講演を行なった。私も桑原さんに誘われて、上智大学での講演に行きました。講演後のレセプションにも参加させてもらって、間近でお目にかかることも出来ました。小柄な好々爺然も、威厳と風格はさすが、周囲を圧倒する存在感でした。
 そして、その6年後、2006年4月30日、81歳で波乱に満ちた生涯を終えることになる。
 東南アジアの文学の金字塔、と言うにふさわしい作品であることは誰しも認めるところでしょう。インドネシアに関心のある人のみならず多くの方に読んでもらいたい作品です。

プラムディヤ・アナンタ・トゥールの邦訳作品
プラムディヤ・アナンタ・トゥールのインドネシア語原著作

書誌アクセス
2007年
8月7日

 ご存知の方も多いかと思いますが、アジア文庫の数軒となりに「書肆アクセス」という書店があります。地方の出版社や、小さい出版社の本を扱う、地方・小出版流通センターの展示・即売店として1976年に開業、当初はすずらん通りから少しはなれた場所で開店、81年に現在地に移転しています。アジア文庫の開店が84年ですから専門店としては先輩格です。書誌アクセスは小売だけでなく、書店卸もしています。アジア文庫も仕入れではずいぶんお世話になりました。通常の出版流通に乗りにくい本を手にとって、内容を確認して仕入れることが出来る貴重な存在でした。
 すでに報道されていますが、その書肆アクセスが今年の11月で閉店することになりました。この話を最初に聞いた時は、絶句でした。店長の畠中さんによると、売上の減少による親会社の経営的な判断とのこと。畠中さんとは、顔をあわせる度に、「どうですかー、売れないねー」という枕詞に始まって、立ち話をすることも度々。畠中さん自身はもう少し頑張りたかったという気持ちがあったようでしたが、親会社の経営的な判断であればやむをえないのでしょう。アジア文庫も独立店舗でなければ、とっくに閉店となっていたかもしれません。町の小さな書店が次々に閉店しています。専門書店も経営環境の厳しさは変わりません。
 同業者として、小さな専門店として、書肆アクセスはアジア文庫にとってよき仲間、ご近所さんでした。畠中さん、ありがとう、お疲れさま、残念です。

タイの経済政策が分かりません
2007年
6月15日

 タイの現政権の経済政策が私にはまったく分からんのですが、どなたか、詳しい方ご教授いただけないでしょうか。昨年末でしたか、タイへの支払いのため、銀行に送金手続きに行ったところ、タイの中央銀行の意向で、送金できないと告げられました。年が明けて、徐々に緩やかな規制になって送金は可能になりましたが、送金先の銀行によっては、「私は、未着や、紛失等、送金にかかわる事故の発生に対して一切、貴行にその責任問いません、云々」といった念書を提出させられます。外国からの送金を規制するというのは、「外貨はいらないよ」ということなのでしょうか。
 聞きかじったところでは、バーツ高を抑制しようとしたとのことですが。素人考えでは、これほど極端な規制は、かえって国内経済を停滞させてしまうといった副作用の方が大きいのでは?と思えてしまうのです。現にバーツ高は一向に解消されていません。外国人事業を規制するような政策もとられているとか、ますます分からない。
 バーツの急騰は、アジア文庫にとっても頭の痛いところです。加えて、タイからの送料も相当に値上がりしています。やむなく、タイからの輸入書も値上げせざるを得なくなっていますが、それも限界があります。なんとか、これ以上は上がらないで、と願うばかりです。

 タイの経済がらみでの本では、『タイ株入門』といった本が、いきなり5月のベスト10の上位に顔を出しています。アジア文庫のお客さんは、投資とは無縁の人が多いのでは、と思っていたのですが、これは一体どういうことなのか?こちらも謎であります。
 でも、ちょっと気になります。タイ株は儲かるのでしょうか?

『仏法』騒動
2007年
5月27日

 かってに、長らく休ませていただきました。すいません。別に体をこわしていたわけでもなく、むしろ、ここのところ風邪もひかずに、快食快眠、五十肩も癒えて、健康そのものなのですが、本屋の仕事というのは、どうも、建設的な言葉が出てこない生業(なりわい)なのか、ボヤキにしかならなくて、筆が重くなってしまいました。
 ありがたいことに、数名の方から、「レジ裏から」はどうなっているんや、というお叱りの言葉もいただいております。反省しきりであります。

 とはいえ、この間、特に変わった動きもなく、改めてご報告するようなこともなく…、…いや、ありましたね、『仏法』騒動が起こりました。僧侶の反乱ではありません。『仏法』はタイの偉いお坊さんの本で、仏教の基礎知識がなければ、とても読みこなせないような難解な本です。が、とあるブログで、大絶賛されたことがきっかけで、注文が殺到。本書は、翻訳者の野中さんがタイで自費出版された本で、他店で扱いがないということもあったのでしょう。野中さん自身も、「売れるとは思わない」とおっしゃっていた本でした。
 数冊あった在庫は瞬時になくなり、追加を依頼しましたが、なにせ、物流は野中さん個人に頼るしかなく、多くの人に入荷を待っていただくということになりました。
 ちょっとしたきっかけで、埋もれていた本が動き出すといったことはこれまでも何度か経験していますが、いずれもマスメディアがきっかけでした。時代は変わってしまいましたね。誰でも、そのちょっとしたきっかけや動機を作る手段を手にしたということでしょう。

過去のアジア文庫のレジ裏から(2005年1月〜2005年11月)

過去のアジア文庫のレジ裏から(2000年8月〜2004年11月)

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